導入
認知症治療分野に新たな動きが見られる2025年、薬剤師として皆さまにお伝えしたい重要な情報があります。高額な新薬が次々と登場し、一見希望の光に見える一方で、現実的な課題も山積しています。また、「治る認知症」として注目される正常圧水頭症についても、正しい理解が必要です。本記事では、最新の認知症治療の現状と、薬に頼らない健康戦略について詳しく解説します。
目次
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認知症治療薬の現状と高額化の問題
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アリドネパッチの誤解と新薬リバルエンへの期待
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正常圧水頭症の実態と増加の背景
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死亡ピーク年齢の上昇と認知症リスクの関係
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薬を使わない認知症予防戦略
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薬剤師からの専門的アドバイス
1. 認知症治療薬の現状と高額化の問題
既存薬は全て「進行抑制薬」という現実
現在承認されている認知症治療薬は、根本治療薬ではなく全て症状の進行を抑制する薬です1。従来のドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンに加え、2023年以降、レカネマブ(年間約298万円)2、2024年にドナネマブ(年間約308万円)2といった高額な新薬が相次いで承認されました。
医療保険制度への深刻な影響
薬剤師からの警告:
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レカネマブの国内投与対象者は5万~6万人と予測
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年300万円で計算すると、年1500億~1800億円規模の医療費増大
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今後の医療保険制度では3割負担の維持が困難になる可能性が高い3
新薬の適応制限と効果の限界
レカネマブはMMSE22点以上、ドナネマブはMMSE20~28点が必要で45、実際に投与できる患者は非常に限定的です。しかも、これらの新薬も症状を改善する薬ではなく、進行を遅らせる薬であり、レカネマブでは認知機能低下を約27%抑制(進行を7.5ヶ月遅らせる)効果が確認されているのみです3。
2. アリドネパッチの誤解と新薬リバルエンへの期待
アリドネパッチの深刻な誤用リスク
2023年4月に発売されたアリドネパッチは、湿布薬と間違えて使用される危険性が指摘されています16。認知症患者が「湿布と間違えて大量に貼ってしまい、中毒症状になってしまう事例」も報告されており6、家族や介護者の十分な監視が必要です。
主要な副作用リスク:
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適用部位紅斑:24.3%
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適用部位そう痒感:24.9%
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接触皮膚炎:12.6%7
週2回貼付の新薬「リバルエン®LAパッチ」への期待
2025年3月に承認されたリバルエン®LAパッチは、週2回貼付で済む画期的な製剤です58。従来の毎日貼り替えから週2回(3~4日ごと)の貼り替えに変更されることで、患者や介護者の負担軽減が期待されます59。しかしこちらの薬剤も結局は「予防」のための薬で根本原因の解決ではありません。
使用方法:
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通常、成人にはリバスチグミンとして1回25.92mgから開始
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原則として4週後に維持量である1回51.84mgに増量
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背部、上腕部、胸部に貼付し、週2回貼り替え8
3. 正常圧水頭症の実態と増加の背景
高齢者の「100人中7人」が該当する可能性
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、65歳以上の高齢者の0.5~2.9%(平均1.6%)が罹患しており1011、一部の医師は「100人中7人程度」と診断する場合もあります12。これはパーキンソン病と同程度の有病率に相当します13。
「治る認知症」としての特徴
正常圧水頭症は、歩行障害、認知障害、排尿障害の三徴が特徴的で1314、特に以下の症状が見られます:
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歩行障害(94~100%に出現):小刻み歩行、開脚歩行、転倒しやすさ
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認知障害(78~98%に出現):反応の遅さ、自発性低下、ぼーっとした状態
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排尿障害(60~92%に出現):尿失禁、夜間頻尿15
劇的な改善が期待できるシャント手術
背中から髄液を抜くシャント手術により、約80%の患者で症状の改善が確認されています16。手術方法には以下があります:
高齢化による増加傾向
高齢化に伴い、iNPHの患者数は今後さらに増加すると予測されています18。しかし、実際に受診する患者は発症者の10%未満とされており13、多くの患者が「年のせい」として見過ごされている現状があります。
4. 死亡ピーク年齢の上昇と認知症リスクの関係
死亡ピーク年齢の劇的な上昇
2021年頃までの変化:
この死亡年齢の上昇は、認知症リスクの増大と密接に関連しています。
年齢別認知症有病率の現実
75歳以降に有病率が急激に上昇します21:
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65~69歳:男性2.8%、女性3.8%
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75~79歳:男性11.7%、女性14.4%
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80~84歳:男性16.8%、女性24.2%
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95歳以上:男性50.6%、女性83.7%
将来予測の深刻さ
2025年には高齢者の5人に1人、2060年には全国民の20~30%が認知症になると予測されています22。これは医療保険制度の持続可能性に重大な影響を与えます。
5. 薬を使わない認知症予防戦略
食事による予防戦略
薬剤師が推奨する食事ポイント:
①積極的に摂取すべき食品
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野菜・果物・豆類:ビタミンB群、C、E、βカロチンの豊富な摂取
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青魚:DHA・EPAによる脳の活性化効果
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緑茶・適量の赤ワイン:ポリフェノールの抗酸化作用
②避けるべき食品
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糖質・塩分・飽和脂肪酸の過剰摂取
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トランス脂肪酸を含む加工食品
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過度のアルコール摂取
運動による予防効果
WHO推奨の運動療法:
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有酸素運動:週3~5回、1回30分以上のウォーキング
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筋力トレーニング:週2回程度の軽度な筋力強化
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デュアルタスク運動:運動しながら頭を使う活動
社会参加の重要性
脳の活性化には社会的つながりが不可欠:
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趣味活動への参加
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ボランティア活動
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地域コミュニティとの関わり
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世代間交流
非薬物療法の活用
日常生活でできる脳トレーニング:
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認知刺激:音読、計算問題、パズル
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回想法:昔の思い出を語る活動
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音楽療法:好きな音楽の鑑賞・演奏
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園芸療法:植物の栽培と世話
6. 薬剤師からの専門的アドバイス
高額新薬への現実的な姿勢
重要な真実:
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認知症の根本治療薬は存在しない
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新薬は非常に高額で、真の費用対効果には疑問
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日本のアルツハイマー病による経済的負担は年14兆円超23
正常圧水頭症への注意喚起
見逃されやすい「治る認知症」:
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歩行障害、認知障害、排尿障害の組み合わせに注意
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「年のせい」と諦めずに専門医受診を
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タップテスト(髄液排出試験)で診断可能24
薬剤師ができる支援
実践的アプローチ:
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服薬管理の簡素化(一包化、服薬カレンダー)
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不要な薬剤の整理と減薬提案
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家族への服薬指導と誤用防止
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地域包括支援センターとの連携
予防重視の健康戦略
ノンヤク(NON薬)健康革命:
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食事:地中海食を参考にした和食中心の食生活
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運動:無理のない範囲での継続的な身体活動
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社交:人とのつながりを大切にした生活
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学習:生涯学習と新しいことへの挑戦
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睡眠:質の良い睡眠習慣の確立
まとめ
認知症治療の最新動向を見ると、高額な新薬の登場により治療選択肢は増えましたが、医療保険制度への影響や費用対効果の問題は深刻です。一方で、正常圧水頭症のように「治る認知症」も存在し、適切な診断と治療により劇的な改善が期待できます。
薬剤師として強調したいのは、高額な新薬に依存する前に、まずは予防重視の生活習慣改善が最も現実的で効果的だということです。死亡ピーク年齢の上昇により認知症リスクは高まっていますが、日々の「ノンヤク」アプローチこそが、真の健康長寿の鍵となります。
家族みんなで取り組める認知症予防から始めて、本当に必要な時に適切な治療を選択できる知識を身につけることが、これからの超高齢社会を生き抜く知恵なのです。
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